番外編 『夏の行方』…後編
夏の行方<後編> 隣の部屋の電話の音で、ジャヌは目覚めた。 カナを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。 鳴っていたのはバッグの中のカナの携帯だった。 少しためらったが寝室のドアを閉め、電話 … Continued
夏の行方<後編> 隣の部屋の電話の音で、ジャヌは目覚めた。 カナを起こさないようにそっとベッドを抜け出す。 鳴っていたのはバッグの中のカナの携帯だった。 少しためらったが寝室のドアを閉め、電話 … Continued
夏の行方<前編> 2006年8月29日、とジャヌはまず記した。 深く考えてのことではない。 寝室から重い足取りで出てきて机の前に座り、PCを立ち上げると、自然に指が動いたのだ。 続けてこう打っ … Continued
<エピローグ②> 案内されたのは大きなダブルベッドが自慢の部屋。 というのもベッド以外に何も置けないほど部屋が狭いのだ。 バスルームには便器とビデが並び、シャワーは廊下の突き当たりの二つの共同のブースを使う … Continued
<エピローグ①> ロベルトのものだという、グレーのプジョーの助手席に乗せられてから、 そろそろ一時間がたとうとしている。 ハンドルを握るカナは言葉少なだ。 「西に向かっている…ってことはピサか … Continued
<17> アパートはあの夜のままだった。 ここでは時間はまだ過去になってはいないのだ。 体は回復し、心にも力が戻ってきてはいたが、 それでも部屋に足を踏み入れるのに、カナはかなりの力を必要とした。 寝室の窓 … Continued
<16> 翌日、カナはジャヌを買いものに誘った。 すでにバーゲンが始まっていたので少し心配だったが、 幸い欲しかったものはまだ残っていた。 アイスグレーのシンプルなシャツワンピースを、以前の半分の値段で、カ … Continued
<15> テラスから、庭のはずれに広がるオリーブの林をカナはスケッチしていた。 柱と高い天井のアーチの間を風が渡り、 どこからか蜂の羽ばたきのひそやかな音が漂うばかりの、静かな午後だった。 ジ … Continued
<14> ※R描写あります。 一夜明けるごとに、カナの傷は癒えていった。 フラッシュバックは時々襲ってきたが、そんなときは薬を飲んだ。 そうして数時間をやり過ごす。 夜は睡眠薬の助けを借りた。おかげで夢 … Continued
<13> いつもより近くで鳥が囀っている。 まるで耳元で歌うように。 一方教会の鐘の音は、少し遠い。 しかしどちらの音も、カナの眠りを心地よくゆすぶった。 靄がかかったようにおぼろな意識で、カ … Continued
<12> 「カナ、すまなかった。」 コーヒーを前にジャヌが切り出した。 「何が?」 「僕が君を写真に撮らなければ…」 ジャヌはずっとこのことを言いたかったのだろう、先ほどまでとは違った苦渋の表情を浮かべてい … Continued