たった15日間、10回の撮影で作品が完成した、
というパンフレットの記載に驚いた。
あれほど濃密な時間を撮るのにわずか二週間しか費やされていないのか…。
しかも主演の台湾俳優チャン・チェンは10日間の韓国滞在中4回の撮影で全てのシーンを演じたと言う。
声を失った死刑囚という設定は、たとえ異国の言葉をしゃべるというハンディがないとはいえ、けっしてたやすい役どころではない。
いくつかの困難にもかかわらず果敢に挑戦する意欲とその集中力、表現力… これは他の出演者にも言えるとことだが。
常識では考えられない撮影期間の短さは、何より資金の問題だろう。
この映画の撮影費用は、韓国国内の映画ファンドなどから資金調達をせずに、事前に海外10数カ国のマーケットに版権を販売してをまかなわれた。それはけっして潤沢な額ではなかっただろう。
(その版権を日本も買ってくれたことに感謝!)
だがキム・ギドクは、徹底して無駄を省いた撮影計画と、練り込んだシナリオで人間の常軌を逸した愛を描ききった。良い作品は充分な資金や時間があれば出来るというものではないのだ(あたりまえのことだが)。
「ブレス」は一見荒唐無稽ではあるけれど、これも男と女の持ち得るひとつの、確かなありようだと納得させられる映画だ。それらの男と女の姿は哀しく、愛しかった。
◆「ブレス」
監督・脚本・編集・製作:キム・ギドク
出演:チャン・チェン、チア、ハ・ジョンウ、カン・イニョン、キム・ギドク
2007年/韓国、84分
配給:エスピーオー
2008年5月から日本各地で上映
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