去年の夏にエジプトで政変があって、
出かけたばかりの地域だけに気になってウォッチするようになった。
その後ウォッチはシリアや、行ったことのないイラクにまで及ぶようになった。
これらの地域を見ていると、中東の動きは決してひとつの国に留まらない、
かならずや周辺の地域にも派生していくのだ、ということがわかってきた。
そりゃあ隣の国の体制が変われば、どんな国であろうと影響は受ける。
でも、中東の場合それは「影響」などという穏やかなものではなく、
「連動」というべき激烈なものになるのだ。
この事がまた、「連動」を恐れる人たちにある行為をとらせる。
シリアの戦闘がいつまでも続くのは、
争っているそれぞれに武器(資金、人員も)を提供する人々がいるからである。
ガザの停戦がまとまらないのは、
エジプトがハマス(モスリム同胞団)の消滅を望む政権になったからでもある。
一ヶ月ほど前、ラマダンの始まる直前に、
イラクとシリアにまたがる「イスラム国(IS)」が建国を宣言した。
第一次大戦後に英仏が引いた国境線を否定するものだ。
彼らはイスラム復興主義、カリフ制を掲げている。
欧米も日本のメディアも、彼らをイスラム(原理)主義テロ組織と呼んでいる。
たいてい、過激な、という形容詞が頭につく。
残虐性を物語るニュースも後を絶たない。
彼らは中東の「ポルポト」なのか !?
もしかしたらそうなのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
実のところ言い切ることが、私には出来ない。
ただ、欧米視点には大きなバイアスがかかっていることは確かだと思える。
なぜなら彼らは私よりはるかに、イスラムから遠くにいるからだ。
そこには、近代資本主義的であったり、近代民主主義的であることに加えて、
キリスト教的な視点があるからだ。
そしてもう一つ、第一次世界大戦と植民地政策がある。
中東の紛争の遠因が、
100年前に引かれたあの暴力的にまっすぐな線にあることを、
「イスラム国」宣言は思い出させてくれる。
同様に今ガザで起きている虐殺は、
第二次世界大戦後のイギリスの三枚舌外交に
(仏には占領地域の山分けを、ユダヤとパレスチナには各自建国を約した)
端を発していることを、思い出させる。
あの地域は、民族も部族も宗派も無視して、
しかも他国によって国が分割されてから、まだ100年しかたっていない。
パレスチナが国土を奪われたのは、66年前のことだ。
遠い日本も、国家暴力をふるった国も、50年、100年前を忘れている。
だが、ふるわれた国は、忘れることが出来ない。
ふるった側が忘れてしまおうと、そのふるわれたことが遠因となる争いを、
今彼らは闘っているからだ。
争いの地雷を撒いた国が、地雷を踏んで始まった暴力を、
どう非難することが出来るのか。
「イスラム国」は、モスルのキリスト教徒に、
改宗か税金かそれとも移住か、さもなくば剣を選べと宣告した。
多くのイスラム教徒が家・土地や財産を捨てて逃げ出した。
イスラム主義者には、何故彼らが人頭税を拒否するのかが理解できないことであろう。
人頭税はイスラム法で異教徒に課せられる税だが、
ムスリムには同様喜捨という宗教税があり、
いずれ税は払わなくちゃいけないのに、と。
逃げだしたのは虐殺を恐れてのことだろうけれど、
もうひとつの傍若無人な虐殺を、欧米は黙認している。
10分後に爆撃するから逃げろとビラをまき、
民家を爆撃し、学校を爆撃し、病院を爆撃し、
浜辺で遊んでいる子供を狙い撃ちする国の暴虐を、誰も止めることが出来ない。
4月、ガザのハマスはヨルダン川西岸のファタハと統一政府樹立で合意、
6月にはパレスチナ統一内閣が発足した。
イスラエルのガザ攻撃は、この統一の分断を図ってのハマス叩きだと推察できる。
三名の少年の殺人事件は、「報復」のかっこうの口実となった。
しかし、自分たちがかつて被ったディアスポラ(離散)をパレスチナ人に強い、
ガザをゲットー化し、ホロコーストにも通じる無差別な虐殺を行うことは、
どのような論理で合理化されるのだろう。
もし、やられたことをやり返す(ハマスの攻撃には100倍返しで臨んでいる)というのなら、
彼らの報復はヨーロッパ・キリスト教世界に対してなされるべきではないのか。
イスラムはユダヤ人をゲットーに押し込めず、
改宗も求めず(人頭税を払えば)、ホロコーストも行わなかったというのに。
ヨーロッパはまた、アラブに対しては50年100年前の行いをチャラにしながら、
ユダヤ人に対してだけは、うしろめたさを抱き続けているようにも見える。
中東ウォッチで見えるのは、一人暴虐を許された国の無法と、
「世界」秩序や民主主義を掲げる国の欺瞞性でもある。
追記 7/31
イスラエルは、ハマスが民間人を「人間の盾」にしている、と批判する。
日本のマスコミも、イスラエルが攻撃をやめないのは、ハマスが攻撃をやめないからだ、
停戦に応じないのもイスラエルではなくハマスだ、というイスラエルの論調を、
そのまま伝えていたりもする。
だが、「人間の盾」にするもしないも、
そもそもこの人たちはガザから出ていくことが出来ない。
結果的に「人間の盾」とならざるを得ない状況を作っているのはイスラエルなのだ。
閉じ込め、逃げ道を閉ざし、爆撃する。
彼らの真の意図は、ハマス潰しではなく、パレスチナの消滅なのだろうと、
思えてくる。
二つ、参考記事をあげておこう。
岡真理さんのメッセージは、元記事を探したけれど見つからなかったので、
そのまま紹介ブログを。
ガザ大虐殺(7/25)
こちらは朝日中東マガジンから。
2014年第三次ガザ戦争の底流に流れる思惑―「民族浄化」への道 (臼杵陽 7/30)
ブログにも書かずにいられなかった。
ガザというゲットー、「草刈り」またの名は「殲滅」
追記 8/1
金曜日から72時間の停戦合意との報あり。
一方でイスラエルは16000名の予備役を追加徴収。
gaza情勢(停戦合意)(中東の窓 8/1)
カイロでイスラエルとパレスチナが協議することになっていますが、イスラエル紙のネットによれば、イスラエル側はシンベト長官、IDFの政策・政治軍事局 長を含む代表団が既に7月30日到着済みで、パレスチナ側はアッバス議長に率いられ、ハマス及びイスラム・ジハードの幹部を含む代表団が31日到着の予定 とのことです。
➾ 残念ながら数時間で停戦破棄。双方とも相手が守らなかったから、と。
フリージャーナリストの田中龍作はガザから発信を続けている。
田中龍作ジャーナル【ガザ発】~8/1
コメントを残す