ピラミッドだけじゃないエジプト ② コシャリ、ハト、モロヘイヤのスープ 後編

posted in: 旅とイタリア | 0 | 2013/3/23

◆3月7日

一人で地下鉄を乗り継いでオールドカイロに行く。 
コプト教の教会や墓地、修道院が残っているキリスト教地区。 
カイロはここから始まった。

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駅の脇のカフェ兼軽食屋に入る。
観光客相手のパウチしたメニューがあった。
スープはないのかと問うと、グッドレンティルスープがあるという。
ここにもモロヘイヤはない。
ターメイヤ(ソラマメのコロッケ。これも国民食)を頼むと、
ディルとコリアンダーの葉の上に乗って出てきた。
スープは黄色で、ポタージュ状で、美味しかった。
ターメイヤは予想と少し違って、あまり味がなかった。
アエーシに挟んでひとつ、そのままでひとつ。

帰り、地下鉄に乗る前に、BEERと手書きの紙が張ってある、
観光客相手の飲み物店で、ご当地ビールStellaを買う。
中缶二本で50p(エジプシャンポンド)。うっかり言い値で払ってしまう。
ホテル周りではビールを売っている店が見つからず、
部屋のミニバーにもアルコールはない(ルームサービスでは頼める)。
去年のホテルには、ルクソールでもギザでもミニバーにビールくらいはあった。
イスラム政権になって、アルコールに厳しくなっているのだろうか。
ここはキリスト教地区だから、それでもお酒を買えたりするのだろうか。

ワインもありまっせマダム、と抜け目のないエジプト商人が迫る。
ふ~ん、と興味なげに応じる。持って帰るのも重いし。
それでも、数歩階段を下って、半地下の店の奥をのぞく。
聞くと150p。2000円とあっては、私でも高いと思う。
125pに下がる。

ノーノーと帰ろうとすると、いくらなら払えるのかと言う。
70p。
ダメダメ、100pだ、とエジプト商人。
うっかりしたことに、いつの間にか値段交渉に入っている。
70p。
100pだよ、だってほら、ちゃんと持ってるじゃないか。
ツワモノ商人は、財布に50p札が二枚と20p札が一枚入っているのを知っている。
私は50pを指し、これは必要な金なんだ、70pしか払えないと言い張る。
それに、さっきビールに50pも払ったじゃん、と言ってみる。
OKと、契約成立。
写真を撮ってこなかったけれど、検索でラベルを発見。
たぶんオマールカイヤーム(ハイヤーム)。
エジプト定番ワインで50p前後と別記事にあった(2012.12月)。

この店の売り方がちょっと密売風だった。
Stellaは通りに置かれた冷蔵庫に、手前のコーラにすっかり隠れるように、
ひっそりと置かれていた。
ワインも外からはまったく見えない。
エジプトではお酒がこれほどにも肩身が狭い。

中級以上のレストランやホテルにはあるというので、
外国人が飲む分には気にすることもないだろうと、思っていた。
けれども、庶民レストランにさえお酒があったイスタンブールとは、
雰囲気がまったく違う。

そういえば砂漠で、不思議なことにビールが恋しくなかった。
久しぶりにアルコール抜きの夕食だった。
ベドウィンの歌と太鼓ですっかり満足だったのだ。

 

◆3月8日

alexandria_14 アレキサンドリアで、きんかんのようなものを荷台で売っているの見つけた。
ガイド(Amr君ではない)に頼んで買ってもらったものには、 きれいに枯れた袋がかぶさっていた。
ほおずきだった。
日本では食べないけれど、ミラノで、
ほうずきのチョコレートがけを食べたことがある。
種はほとんど感じないほどで、甘酸っぱくて美味しい。
口の中に少し渋みが残る。

ガイドに、昼食何食べたいですか、と聞かれた。
コシャリはもういいし、ターメイヤもいらない。
マクドナルドもケンタッキーもあるよ、とおじさんガイドは言う。
私は前の晩、ホテルの部屋で貴重なビールと共に、
近くのマクドナルドのフィレオフィッシュ(日本と同じ味)を食べていた。
10p。テイクアウトで+1p。

せっかく砂漠を地中海に抜けてきたのだ。
シーフードレストランに行くしかないだろう(このツアーの昼食は自腹)。
海を臨む高級店に入ると、日本人団体客が食べ終えたところだった。

ショーケースに並んだ中から好きなものを選び、好きな調理法で頼む。
ガイドは80p(これは観光客値段、ガイド値段は50p)の定食、
私はアサリに似た貝をスープで、わたり蟹に似たカニをグリルにしてもらった。
アエーシとタヒーナ(ゴマのペースト)他何種類ものペースト、
サラダがついてきた。
冷えた白ワイン、といきたいところだけれど、ノンアルコールビールにする。

ぴりりと香辛料の効いたスープは絶品だった。
カニもスープに入れてもらえばよかったかなあ。
グリルはエビもよかったなあ。
ペーストはタヒーニが美味しかった。
チップ5pを入れて120p。
安い! と思ったけれど、エジプトではきっと高いんだろう。
というか、いったいそれが高いのか安いのかが、よくわからなくなっていた。
前日の観光地食堂が60pだった。

フィレオフィッシュも日本の半額くらいだけれど、エジプトの人にはすごく高いんだろう。
ホテル近くのパン屋で買った惣菜パンが1p(14~15円)、
なのに表通りのおしゃれなお菓子屋の(似たような)フォカッチャは一切れ7.5pもした。
7.5pも、と書いたけれど、せいぜい100円なのだ。
けれどもこれが高いと感じる。

地下鉄が一乗り1p。 
タクシーが、ナイルの対岸のドッキ地区ホテルから、
イスラム地区のハン・ハリーリ市場まで15p(3/9日のこと)。
このタクシーもホテルのポーターに、
ノーマルタクシーウィズメーターと言い張って、がんばって乗ったのだ。
ちなみにこのポーター、最初は、ハン・ハリーリ往復、安全なタクシーで100pでどうか、
と持ちかけてきた。
ノーマルタクシー! といい続けていると、いくらならいいのいかと聞いてくる。
無視していたらどこからかドライバーを引っ張ってきて、往復20pだと。
いや片道でいいんだと答えると、取引成立せず、ドライバーは去っていった。
これが5つ星ホテル前のやり取りなのだ。

去年のルクソールでも、半年前のイスタンブールの市場でも、
馬車引きの少年や、香辛料屋の店主や、スカーフ屋の店員との値段交渉で、
いつも疲れはてた。

ガイドブックには、現地人価格、観光客価格、そして日本人観光客価格と、
エジプトには値段が三種類あると書かれている。
誰に対しても値段が決まっている日本の感覚からすると、
ぼられるというのは非常に後味が悪い。
相手は不誠実なとんでもない詐欺師で、こちらは間抜けなカモなのだ、と。

けれども今回、少し考えが変った。
イスラムの教えの喜捨は、一日五回のお祈りや断食と並んで、
敬虔なお勤めのひとつだ(残りの二つは信仰告白と巡礼。五行という)。
モノの値段が、持てるものと持たざる者とで違うのも、この喜捨につながる。

ところで、富者が貧者を助け、金銭などを与えるときの喜捨は、
厳密に言うと義務であるザカートとは別に、サダカと呼ぶらしい。
ただ、私たちが考えるいわゆる慈善とは少し違うような気がする。
つまり行為は貧者にではなく、神に対して行われる、ということ。
だから貧者は、受けた喜捨を恥とも思わず、ましてお返しなど考えもしない。
日本人はよく、イスラム教徒にチップやおみやげをあげても、
彼らは礼一つ言わないと怒るけれど、
どうやらこのあたりの考え方の違いがあるようだ。
この言葉は施しと訳されるけれど、むしろ近いのはお布施か。

モノの値段については、考えてみたら日本だってどこだって、
その一定性が絶対確固なわけではない。
売る側と買う側の合意点である価格は、
両者の納得によるという意味では、いずれの社会も同じなのだ。
たとえば、世界中どこのホテルの部屋の冷蔵庫でも、
飲み物はホテルランク(星の数)に比例して割高となる。
しかも交渉の余地すらない。

私は、タクシーにはきっちり文句を言ったけれど、
実はそれほど気にしてはいなかった。
彼にとっては2倍のかせぎだったかもしれない。
でも私にとっては100円の喜捨だ。

オールドカイロのはずれ、モスクの入り口で靴をあずける。
引き取るとき、同じカウンターのおっちゃんに、言われるまま10p払った。
おっちゃんは、靴は向こうで保管してると別のカウンターを指差す。
こちらのカウンターのおっちゃんも、10pだと言う。
もうあっちで払ったよと言うと、(知ってるくせに)おおそうか、と靴を返してくれた。
モスクは、入場無料、喜捨歓迎なのだ。

それでも、いくばくかの授業料を払って学んだことが少しはある。
一、時間、体力、気力に余裕がないときはスーパーへ
一、到着後いきなりバザール(値札のない店)には行かない
一、バザールでは複数の店でリサーチをすること
一、この金額なら買う、という自分価格を決めておくこと
一、とりあえず半額を目指す
一、そんならいらないや、と、交渉の途中何度か帰るそぶりを見せる
一、お金を払ってしまったら、ぼられた分は喜捨及び授業料だと思う
一、不当だと思ったことについては文句を言う、あるいは怒る(日本語でOK)
一、中国人のふりをする ?

最後のは、前半お世話になったガイドAmr君のおすすめ。
彼曰く、中国の人はエジプト人より値段交渉が上手だから、と。
そう言えばどこでも、まず、ウエアアーユーフロムと聞かれたっけ。
あれは日本人と確かめた上で値段設定するためか?
律儀にフロムジャパンと答えていたけれど、今度お店で聞かれたら、
チャイナ、と言ってみようか。
でも、それも別の意味で後味が悪い。
彼らが詐欺師とすれば、こちらも騙りになればいいのかもしれないけれど、
彼らとの商取引を、騙し騙される行為に限定してしまいたくない。
後味というのは、いくらで買ったかより大きかったりもする。
そんなに高額商品でなければ、だけど。

【付記 1】
日本人観光客価格が出来てしまったことについては、
歴代日本人観光客の責任もある。
なにせ物価が違うし、商習慣もまったく違う。
まして日本人パッケージツアーには時間がない。
時間こそ値千金の日本人は、言い値で買い物するしかないのだ。
日本人が、あるいは日本人観光客の旅行スタイルが変らない限り、
日本人観光客価格もなくならないだろう。

 

◆3月9日

最後の日の昼食は、ハン・ハリーリ市場の近くでエジプト料理を食べようと思った。
ほんとは中級レストランあたりで、モロヘイヤのスープを飲みたかった。
でもなかなかみつからない。
仕方なくガイドブックにあった、「地元客にも人気のハト料理店」を探す。
同じブロックを二周して探し当てたのは、庶民的な、
テイクアウトもやっているスタンドだった。
細い路地に椅子とテーブルが一組、その奥の店内に三組。

店のテーブルに座り、モロヘイヤのスープある? と聞くと、ないとの返事。
メニューは? それもない。
何があるのかといえば、二種類だけ。
ハトのグリルと、ハトのお米詰めグリル。
お米詰め、ハマーム・マフシーを頼む。

cairo_3_12 一昔前の日本の学食で見かけたようなガラスコップに、
油染みた薄茶色の濁った液体が出てきた。
ワッツ? と若者に問えば、スープ、とひと言。
なるほどハトのスープね。
濃厚で美味だけれど、塩コショウしたらもっとおいしそう。
テーブルにあるプラスチックの容器はまさに塩・コショウ。
けれども、汚れた蓋をあけて容器に指をつっこむ気になれない。
レモンを絞りいれて半分ほど飲む。

野菜サラダにアエーシ、そしてお決まりのゴマペースト、タヒーナ。
タヒーナは、この店のが一番美味しかった。
ハトは皮がぱりっとして、美味しかった。
中のお米も、まあまあ美味しかった。
もっと熱々だったらよかったけれど。
セットで39pなり。

前日、アレキサンドリアに向かう道筋に、
サグラダファミリアのような、円錐形でてっぺんがまるっこい、
穴のあいた塔がたくさんあった。
ハトの巣だと、ガイドが教えてくれた。
もちろん、食用のハトの、である。

モロヘイヤスープは、今回、ついに飲めなかった。

 

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